白人美女天国を揺るがし始めたエキゾチックな南洋・東洋美女たち
【第2回】美女ジャケはかく語りき 1950年代のアメリカを象徴するヴィーナスたち
白人美女でない美女ジャケのセールスが悪くないと知ったレコード会社は、もうオリエント美女の起用に躊躇しない。ノーマン・ルボフの洒落たコーラス・バンドによるハワイをテーマにした「Aloha」は、当然のようにアロハなポリネシア系美女がジャケットに。
並べればわかるように、フェランテ&テイチャーのジャケとノーマン・ルボフのジャケはよく似ている。ソテツの葉陰の美女。ようするに南洋の美女は、都会風の場所にいるはずはなく(という妄想)、ソテツの葉陰にたたずんで、こちらに流し目を送っているハズ! なのだ。
これがエキゾ・ミュージックらしさを醸しだすとわかると、レコード会社は一斉にソテツの葉陰やねむの木の葉陰の美女写真をジャケットに使い出す。リスナーも釣られて、ちょっとピントがボケた葉陰の向こうの美女写真を見ると、とてもエキゾチックな気分になってしまったのだ。
上記、2枚のアルバムがリリースされたのは1962年のこと。同じ年、ジャズ・オルガニストのジミー・スミスのアルバム「CRAZY! BABY」を飾ったのは、黒人女性最初の職業モデル、マリオン・パーカーだった。あぁ、時代は変わる。白人美女は極上だったが、もっと別の美もあることがわかり始めてしまったのだ。
アンドレ・コステラネッツというイージーリスニング界で大成功した指揮者/編曲家がいる。サンクト・ペテルブルク生まれでロシア革命時に家族がアメリカに亡命したというバリバリの「西欧」派だ。当たり前の話だが。
ワルツだのなんだの西洋美学然としたこのコステラネッツが1950年代後半からいきなりエキゾ音楽を始めて、ジャケットにもポリネシア系美女だの、中国美女だの、果ては浮世絵美女まで持ち出すようになる。レコード会社の企画だろうが、なんか1950年代の白人世界の「調正」、そう保守的な調正=ハーモニーがどこかで狂い初めてしまった。
もう歯止めはない。エキゾ・ミュージックの創始者、レス・バクスターのレコードなどはやりたい放題。ハリウッド映画での勘違いした東洋(古い日本の風俗はだいたい中国風になっているとか)と同じだし、使われるフォント(書体)は、いかにもな東洋風。バンブー書体とか、アラビア風書体とか。
これ、東洋ではそんな使われていませんよ、と言ったところで、ロサンジェルスのチャイナタウンやハリウッドで使われていたのだからいかんともしがたい。
でも、それで良かったのだ。とりあえず白人中産階級は、オリエントの美に目覚めた。目覚めなかった白人ロウワーがいまのトランプ政権の基盤となっているのだから、なんちゃってエキゾも歴史的意味はけっこう大きかった。…そう思いたい。
【イベント情報】
8月24日に神田猿楽町の株式会社ケンエレファント内「神保町大学」にて、長澤均氏と『BED SIDE MUSIC めくるめくお色気レコジャケ宇宙』(ロードサイド・ブックス)の著者・山口’Gucci’佳宏氏の対談(司会:都築響一氏)が行われる。
詳しくはこちら:http://jimbocho.net/522